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No.53 ロマンティック街道

ドイツから無事帰国しました。
ロマンティック街道を車で南下しながら、中世の香りを満喫してきたんですよ。
ロケ中にバースデイを迎えたこともあり、一生思い出に残るような素敵な旅となりました。
この模様は、6月30日と7月7日放映の「地球街道」(テレビ東京)でお楽しみいただけます。夜10時半からですので、絶対にご覧くださいね!

さて、1月より連載しておりました下野新聞・しもつけ随想がこの5月をもって終了しました。
栃木県外の方にもご覧いただきたく、フロムユミでご紹介させていただきます。
それではまた。どうぞお元気で!
「花とひみつ」山形由美
初夏を迎えた那須は、休日ともなると大変な賑わいを見せる。各方面のナンバープレートをつけた車が山の上までつながっていることさえある。そんな時はよほどの用事がない限りは外出せず、爽やかな空気を味わうために自宅の近くを散策することにしている。

ある日のこと。いい気持ちで散歩から戻り、玄関に向かって庭に足を踏み入れると、隅の方に不自然な土の盛り上がりを見つけた。一体なんだろうと目を凝らしてみると、なんとそれはひとつだけではなく、直径三十センチぐらいの山がいくつもボコボコと続いているではないか。ハッとして、「もしかしたらこれが、モグラのあと?」と青くなった

ガーデニングを楽しむものにとって、球根を食べてしまうモグラは最大の敵とされている。ホームセンターではモグラよけの網のようなものまで売っているほどだ。話には聞いていたが、まさか家まで来るとは思わず、すっかり油断していた。モグラが次々と球根を食べながら庭の下を動き回っている姿が想像されて、ゾッとすると同時に困った気持ちになった。すると一瞬ののち、子供のころに読んだ、ある物語を思い出したのである。

お花の大好きなハナコちゃんが、野原に写生に出かける。そしてモグラを飼いならして花の世話をさせたらきれいな花がたくさん咲くかもしれない、とモグラの姿を自分の絵に書き加えた。そのとき、風が吹き、その絵を飛ばしてしまう。はるか遠い島に着いたその絵を見たある研究所の人たちは、それを本国からの命令だと思って、花の世話をするモグラのロボットを五百匹も作ってしまったのだ。モグラたちは海底を進み各地に広がり、ひたすら働き続ける。地下で土地を豊かにし、余分な種を体の中にしまっては別な場所に蒔(ま)く。そして雑草の根を噛んでは枯らし、美しい花園を作っていくのだ。

自室に戻った私は、書棚を捜すと古い本をやっと見つけた。久しぶりに手にした厚さ一センチほどの小さな本は、白かった部分が茶色に変わり、裏表紙に書かれた「一年一組やまがたゆみ」という下手な字もすっかり薄くなっている。

その本のタイトルは『花とひみつ』。ショートショートと呼ばれる独自な短編を、生涯に一〇〇一話も生み出した人気SF作家、星新一さんが、自身が父親となったころに手がけた子供向けの作品である。ページを開くと、母の筆跡で漢字にルビが振ってあり、当時まだ漢字があまり読めなかった私が一生懸命に読んだことがうかがえる。生き生きとしたストーリーと、和田誠さんによる見事な絵が相まって、そのころの私は本当にそんなモグラのロボットがいると半ば信じていたのであった。

そういえば最近、手入れもしていない庭の片隅に知らない花が咲いていた…。
もしかしたらハナコちゃんのモグラが我が家にも訪れてくれたのかもしれない、と夢を見ているような気持ちになった。
2007年5月28日
山形由美
 
※下野新聞5月21日(月)付 『しもつけ随想』より転載
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