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No.55 信州の思い出

7月、珍しいことに2週続けて長野に出かけました。
最初は軽井沢に。いとこの長男の結婚式に出席するためでした。
最近では車で行くことが多かったため、軽井沢駅に下り立ったのは久しぶりのことでしたが、駅周辺の変わりようには隔世の感を覚えました。中学・高校在学中には学校のキャンプ場に、毎年のように同級生や聖歌隊の仲間たちと訪れていましたが、当時は上野駅から特急に乗って行ったものでした。上野駅のホームや旧軽銀座で、時おり息子さんを肩車したジョン・レノンとヨーコ・オノご夫妻を見かけたりもしました。

そして大学時代は、軽井沢プリンスホテルでの演奏のお仕事のために何回か通いましたが、あるとき汽車のデッキで偶然小澤征爾さんをお見かけしたことがありました。一緒にいたピアノの友人と、思い切って
「私たちは音大生なんです!」
とお伝えすると、とてもフレンドリーに、
「ああ、そうなの〜。頑張るんだよ。一緒に素晴らしいピアニストがいるから、紹介しよう」と、わざわざその方に声をかけに行かれ(フィリピン出身の女性ピアニスト、セシル・リカドさんでした)、私たちに紹介してくださったのです。単なる学生である私たちにしてくださったそうした行動と小澤さんのお人柄に触れ、深く感動したことを改めて思い出しました。
緑に包まれた高原の結婚式では、久しぶりに叔母やいとこたち、その子供たちと新しい門出を祝い、素敵な一日を過ごすことができました。

2回めは、軽井沢からひとつ先の佐久平駅からほど近い、2ヶ所のホールでの演奏のための訪問でした。実は来年の1月に決まっていた佐久でのコンサートを、なんとか7月に前倒ししてもらえないだろうか、という要請を受け、急遽変更された日程だったのです。このようなことは今まで余り例がありませんでしたが、主催者の方に何かご事情がおありのご様子だったので調整させていただいたのでした。その理由というのを後日ニュースで知り、愕然としました。作曲家、羽田健太郎さんが急逝なさったのです。7月にコンサートをなさるご予定だったのが、重篤に陥られ出演が不可能と思われた時点で、主催者の方から私に声をかけてこられたのだということが初めてわかりました。

ハネケンさんにはいくつか思い出があります。
初めてお会いしたのは、デビュー間もない時でした。
その頃、NHKがハイビジョンを開発していて、実験的な番組を作ることになり、出演依頼をいただきました。それは映像と音楽を合体させたもので、ハイビジョンの可能性を探る数々の新しい試みがなされました。その中で音楽監督をなさっていたのがハネケンさんでした。NHKで録音したのち蓼科高原で映像を撮りましたが、それが今回のホールと同じ長野であることに、何か不思議な偶然を感じました。

そしてもうひとつ、とても印象深かったのは、テレビ朝日の「ニュースステーション」に出演させていただいた時のことです。富士山の中腹などびっくりするような場所にピアノを運び、ハネケンさんが演奏なさるという名物コーナーでご一緒させていただいたのです。そのときは横浜港を出発して周遊する豪華クルーズ船の上からの生中継でした。リハーサルの時はなんでもなかったのに、いざ放送がスタートすると海が荒れ始め、船が大きく揺れ出したではありませんか。スタジオの久米宏さんからは「大丈夫ですか?」と 心配そうな声が。
立ってフルートを吹き始めた私は足元がおぼつかなく、なんだか目が回るような思いでした。モニターの画面を見ると、画面が斜めに映っており、なんとも珍しい映像が流れています。そんな中、ハネケンさんはいつもどおりにこやかに、悠然と演奏を続けられました。そのいかにも頼りなる風情に支えられ、私も平常心を取り戻し、無事演奏を終えることができたのです。佐久でのコンサートのアンコールでは、その時共演させていただいた曲、カーペンターズの「I Just Fall in Love Again」を演奏しました。そして、ピアニストの榎本潤さんも、かつてハネケンさんの身近で聴き覚えた独特の演奏スタイルを再現し、「渡る世間は鬼ばかり」のテーマを披露なさいました。本来であれば、その時そのステージで熱演なさっていたであろうハネケンさんを、会場のお客様とご一緒に偲びながら、コンサートの幕を閉じました。

たくさんの人たちが避暑に訪れる夏、信州にまつわる私の思い出のいくつかを、ご紹介させていただきました。
2007年7月31日
山形由美
 
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