Home

山形由美 オフィシャルサイト

Via Arietta


From Yumi

 
 
ミュージック プレイヤー
 

Contact

ご意見、お問合せはメールにて
ご連絡ください。
yumitt@yumi-yamagata.com
 

No.69 いにしえに馳せる思い 〜ふたつの野外コンサート

秋はもの思う季節。
今月は、日本の歴史を深く感じる野外コンサートが続きました。

14日に訪れたのは、愛知県犬山市です。犬山城で知られるその地には、古代からの時を告げる古墳がいくつもあります。その中でも緑の草に覆われているのが、その名も青塚古墳という優しい風情の古墳。地元の大縣神社という歴史ある神社が大切に保存し、地元の人々の交流の場として毎年コンサートを主催しておられるのです。
その日は、まさに中秋。もし晴れれば名月の下で演奏をお聴きいただけるとあって、私と共演してくださるギターの西村正秀さんは、期待を持ってその地を訪れました。リハーサルの時間にはやや強かった日差しも、夕刻1000人を超す人たちが集まってくる頃にはすっかり和らいでいました。古墳の前に設置されたステージにはススキがあしらわれ、雰囲気も満点です。
その夜のために組んだプログラムは、月・星を歌った曲。
ドビュッシーの「月の光」、滝廉太郎の「荒城の月」、ディズニーの名曲「星に願いを」などの曲が進んでいくと、地に腰を下ろして聴いてくださっている皆さんの頭上には、それは見事に輝く満月が昇ってきました。そしてラヴェルの「亡き王女のためのパヴァーヌ」を演奏していると、自分たちの奏でる音が天や地に広がっていき、古墳に眠る方に届くような気がして背中がぞくっとするのでした。
20年以上になる演奏生活でも、古墳での演奏は始めてのこと。休憩なしの90分間、身じろぎもせずに聴き入ってくださっている皆さんの様子に、感激を覚えた中秋の夜でした。


そして26日には、足利市に行ってまいりました。
那須と同じ栃木県内ですが、かなり南に位置する足利市は、小京都といった風情でまた魅力的な土地です。足利学校という、日本最古の学校が見事に復元され、その庭園で毎年コンサートが行われていることは友人のヴァイオリニスト、古澤巖さんがたびたび出られていたことから知っていましたが、今年は私と、ギターの荘村清志さん、そして中国琵琶(ピーパ)の孟仲芳(モン・ジュンファン)さんのジョイントコンサートが行われることになっていたのです。
孟さんとは3年前に初共演して以来のお付き合いですが、そのときも荘村さんとのトリオでした。今回は素晴らしい環境の中、久しぶりの共演とあって、皆張り切って臨みました。孟さんは、中国・天津のご出身。中国で音楽の勉強をされたのち来日。外国人でありながら日本人と同じ条件で有名大学の法科大学院を受験され見事合格し、今は博士課程に在籍しておられます。その明晰な頭脳の源には理由がありました。聞けばなんと孟子の71代目の子孫にあたられるのだとか。音楽家でも勉学に励むようにという、学者であるご両親の方針もあり、学問を重ねておられるそうです。まさに孟母三遷の教えですね。
暮れなずむ足利学校では、かやぶきの「方丈」という中央の建物の開放部をステージに見立て、美しく手入れされた日本庭園に大勢のお客様が並んでいました。そして珍しいことに方丈の中にもお座布団を敷いて、お客様が我々の後ろにぎっしりとお座りになっていました。
戦国時代の、項羽と劉邦の最後の戦いを現した中国の武曲「十面埋伏」を孟さんが演奏すると、爪で強く弾いたりこすったりする音が、馬のいななき、兵士たちの悲鳴などに聴こえてきて、その迫力には身震いするほどです。暗い大気に包まれているせいか、その様子がよりリアルに感じられてしまうのかもしれません。
そして静かでゆったりとした曲を3人で演奏すると、鈴虫の声が聞こえてくるではありませんか。秋風が庭木を揺らす音も混じりあって、その日そのときでなければ存在しない「音楽」が生まれた瞬間でした。
儒学を尊んできた足利学校には、孔子を祀った孔子廟がありますし、その教えを継承した孟子の像も置かれています。終演後、孟子像を囲みながら、今回孟さんの出演により、更に足利学校の存在意義を認識する機会を得たことを強く感じたのでした。
2008年9月29日
山形由美
 
Page Top
 

このサイトに掲載されている記事、写真、あらゆる素材の著作権法上の権利はユミットクラブが保有、管理しております。
これらの素材を、いかなる方法においても無断で複写・転写することは禁じられております。
Copyright © Yumitt Club All Rights Reserved.